僕達の願い 第8話


ジェレミアに二人を預け、夕刻に道場に来たスザクは真っ先に藤堂の姿を探したが、どこにもその姿は見えなかった。
仕事を終え、この時間に来ている兄弟子たちに話を聞くと、何やら若者と年配者が藤堂を訪ねてやって来たのだという。
そして、今道場の裏手で話をしているらしい。
年配者と若者。
京都六家の関係者だろうか。
何かあったのだろうか。
話をしていると、道場の扉が開き、藤堂が中へ入ってきた。
後ろには今話に聞いた客人。
その姿に、成る程、そういうことかと納得した。
年配の男性、若い男性、そして若い女性。
その顔に覚えがある。
思わず目を眇め、入ってくる彼らを見ていると、あちらもスザクに気がついた。

「枢木スザク!?どうして此処に」

若い、メガネの青年が指をさしてそう言った。

「中佐、どういうことですか!?何故コヤツが此処に」

年配の男性が眉を寄せ、そう藤堂に尋ねた。
あまり覚えのない青い髪の青年は口を閉ざしじっと此方を見据え、あの時代にも何度か接触のあった千葉は驚き目を見開いていた。

「何を言っている?スザクくんはこの道場の門下生だ。道場に居て何がおかしい」

他の門下生たちが訝しむ表情で見つめる中、藤堂は平然とした声でそう告げた。

「お久しぶりです、千葉さん」

当時接触のあった千葉にそう声をかけると、彼女はそれで悟り、目を見張った。

「え、あ、久しぶり、ですね、ゼ・・・スザク、くん」

敵であった時は枢木と敵意を込めて呼び、味方であった時はゼロだ。
どう対応していいのか困ったというのがありありと見え、スザクは苦笑した。
そんな千葉とスザクのやり取りで、門下生たちは、スザクの知り合いということは、スザクがいたずらをして散々怒らせた相手なのだろうと判断したようだった。
あまり藤堂の客人に視線を向けているのも悪いと、各々鍛錬に戻っていく。

「スザクくん、その様子では無事着いたようだな」

冷たく暗い死者の瞳をしていたはずの少年の瞳には、明るく暖かな生気が戻っており、藤堂は安堵の息を吐いた。
仮面を被りゼロを演じていた少年は、一人は死に、一人はその心を殺し生きていた。
すべてを殺し、ゼロという名の英雄となった少年。
だが今ここに居るのは間違いなく枢木スザクで、昨日とは別人と言っていいほど身に纏っていた気配が変わっていた。

「ええ、着きました。ですが無事とは言えません」

苦笑しながらそう口にすると、藤堂は大きく頷いた。

「ああ、そうだったな。ナナリーくんは大丈夫だったのか?」
「先生、その事で折り入って相談があります。お時間をいただけませんか?」

真剣な声音で話すスザクに、何かあったのかと悟った藤堂は、解ったと頷いた。
そして、門下生たちに急な来客が来たため今日はこれで解散とする旨を伝え、その数分後には道場内から門下生は居なくなり、残ったのは藤堂と四聖剣、そしてスザクとなった。

「何かあったのか?」

藤堂と向かい合うように四聖剣、そして藤堂の横にスザクが座った。

「はい。ブリタニア側にも記憶を持つものが居ることが解りました。それも皇帝の直ぐ側に。今回、傷を負ったのはナナリーではありません。ルルーシュです」

その言葉に、藤堂は息を呑んだ。
千葉と、卜部という若者もまた、ルルーシュの名を聞き、目を見張った。
その反応で、卜部はゼロの仮面の下を知る人物なのだと、スザクは知った。

「マリアンヌ様暗殺の犯人は、おそらく中華連邦にある嚮団施設で自分が死ぬ原因となった彼の、ルルーシュの行動を封じたのでしょう」

そのスザクの言葉に、藤堂は「中華連邦の施設?」と、眉を寄せて訪ねてきた。

「ゼロから聞いていませんか?C.C.の話では黒の騎士団があの施設を襲撃し、研究員も全て抹殺したということでしたが?」
「それってまさか!」

眼鏡の青年、朝比奈はなにか知っているのか驚きの声を上げ藤堂を見、藤堂は厳しい表情で、スザクの言葉の続きを待っているようだった。

「あ、そうか。そういう汚れ仕事を見せませんよね、彼は」

汚い仕事は自分一人で行い、綺麗な正義の味方としての作戦ばかりを黒の騎士団に与えていた。
それを知ったのはゼロとなってから。
C.C.が苦笑交じりに話し、シュナイゼルがそれらの情況からルルーシュの行動と使用されたギアスを予想し、彼が行っていたであろう裏工作の一部を垣間見た時だった。

「・・・無抵抗の女子供、そして研究員らしき非戦闘員を一方的に虐殺したという話は噂で聞いているが、詳しく教えてもらえないだろうか」

それは、朝比奈がゼロを疑い、命令を無視した理由で、その結果藤堂もまたゼロを裏切ったのだ。ルルーシュという人物をゼロレクイエムで理解したとはいえ、今だその内容に納得は出来なかった。
そんな怒りをわすかににじませた藤堂の言葉に、スザクは不愉快だと言いたげに眉を寄せ、嘆息した。

「その言い方だと、まるでゼロが意味もなく虐殺したように聞こえますね。僕もC.C.とジェレミア卿から聞いただけなので、詳細は解りませんが、それはギアス嚮団壊滅時の話で間違いないでしょう。シャルル皇帝の研究施設で、そこに居た者達は戦災孤児、あるいは誘拐されて集められました。彼らはギアスの実験体で、ほぼ全員がギアス持ちです。一見すると無害な人たちに見えますが、まともに正面から戦えば、勝つことは難しい相手ですから、襲撃時はギアス嚮団の目をくらませるためにゼロはエリア11に居ると油断させ、相手が武装する前に一気に叩いたのです。それでも戦況は厳しく、嚮団に捕らえられていたコーネリアの助力のお陰でどうにか壊滅させることに成功したと聞いてます。そしてその時、殺害に成功した嚮主というのがマリアンヌ様暗殺の犯人であるV.V.です」
「ほぼ全員が、ギアスを?」

藤堂は驚きに目を見開き、そう呟いた。

「ギアスというのは、ルルーシュが持っていたものだけではないのか?」

千葉も眉を寄せ、そう訪ねてくる。
彼らはルルーシュの持つ力だけをギアスと呼び、彼以外異能を持つものは居ない、そう思っていたことがよくわかった。

「はい。ゼロの傍に居たロロという少年を知っていますね?彼はその嚮団出身で、物心がついた時には既にギアスを使い暗殺者として何人も殺害していたそうです。ですがゼロは自身を暗殺するために送られてきたロロを味方に引き入れ、同じく嚮団で実験体とされていたジェレミア卿の協力も得、ギアスを量産していたあの施設を消し去りました」
「ロロ・・・あの少年もギアスを?そしてジェレミアも実験体だったと?」
「重症を追ったジェレミア卿を、皇帝は実験体とし、遺伝子操作を行いました。ジェレミア卿に発現したギアスは全てのギアスを無力化させるギアスキャンセラー。消せたんですよ、ルルーシュのギアスは。だからこそのギアス兵。すべてが終わった後、ルルーシュが兵士にかけたギアスは全て解除しました」
「・・・そうだったのか」

藤堂の顔には困惑と共に安堵と、そして後悔が浮かんでいた。
ギアスは解除できないもの。
一度ルルーシュの支配下に入れば、ねじ曲げられた意志が元に戻ることはない。
それがルルーシュを裏切った彼らが掲げていた大義名分の一つだったことは、スザクもよく知っていた。

「ルルーシュは誰よりもギアスを憎んでいました。その力は、自分の物を含め、全て消し去らなければいけないと、皇帝であったあの時、嚮団に残っていた資料から、世界に散らばっていたギアス能力者を見つけ出し、悪逆皇帝に逆らった罪という名目で処刑したのです。そして最後に残ったギアス能力者であるルルーシュもまた、ゼロに処刑されました」

ジェレミアの能力はあくまでもギアスの無効化なので、数には入っていませんが。とスザクが言うと、全員が悲痛な表情で視線を逸らした。

「知っていましたか?ルルーシュのギアスは絶対遵守。どんな命令でも従わせる、とても強力で、便利な能力でした。ですがその力を乱用したのは皇帝となってからです。ちなみに、黒の騎士団の中で彼のギアスをかけられていたのはただ一人、カレンだけ。それも、ゼロが世に現れる前、何故テロリストと共にいるのかという質問をした時に使用しただけです。黒の騎士団は正義。だからこそ汚れた仕事はギアスを使い自分一人で行っていたのです。嚮団壊滅時は、流石に戦力が必要だと零番隊を連れて行ったようですが」

ギアスの全てを悪、ルルーシュを悪とした貴方達は信用しないと思いますが。
再びゼロの暗く沈んだ瞳に戻ったスザクは、冷たい視線で四人を見た。
暗い闇を宿した死者の瞳。
その瞳に魅入られたことで、四人は体を振るわせた。

「・・・私はそんな話をしに来たわけではありません。今度ジェレミアにこの周辺の案内をお願いしたいのです。私が共に行けばいいのだが、ルルーシュとナナリーを置いていくわけには行かない」

声が低くなり、口調まで変わってしまったスザクに、藤堂は悲しげな視線を向けた後、解ったと頷いた。

「だが、ルルーシュくんを車いすに乗せ、散歩をするという方法もあるのではないか?」

嘗てナナリーと出かけるときは、そうしていたことを知っている藤堂はそう口にしたが、スザクは首を横に振った。

「ルルーシュは今、ベッドから動かせない」

悲痛さを滲ませたその声音に、藤堂はすっと目を細めた。

「どういうことだスザクくん。以前とは違うのか?」
「ルルーシュは全身を鋭利な刃物で切り刻まれている。そのため、今は両腕も使えず自らの意志で身動ひとつ取れない。容態が不安定だというのに、この長距離を移動させられ、体調を崩し今は薬で眠っている。彼にも記憶があり、相変わらず口は達者なので、会話はできます。今度会いたいと言っていました」

V.V.が憎しみを込めて傷つけたルルーシュの容態をしり、藤堂達は息を呑んだ。

「・・・そうか。桐原公が明後日の昼前にカグヤ様を連れてルルーシュくんに会いに来る。その時に話をしよう」
「分かりました。では明後日、お待ちしています」

スザクは立ち上がり、一礼すると道場を後にした。

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